そろそろM&Aに取り組もうか、とお考えの先生方へ。今回は、税理士がやるべきM&A支援と、やらない方がいい危ないM&A支援について解説します。
結論は、「関わり方」次第で価値もリスクも変わるということです。 M&A支援には多くの類型がありますが、そのなかでどのポジションに立つのか——これが決定的に重要です。
税理士が関与するM&Aの4つのパターン
まずは税理士が関与する可能性のある4つのパターンを整理し、私なりの評価とその理由をまとめてみました。
| 関与パターン | 評価 | 理由 |
|---|---|---|
| M&A仲介 | ✕ 推奨しない | 利益相反・双方代理の構造。税理士には向かない |
| 売り手FA(または買い手FA) | △ 条件付き | 仲介に近い動きになる。作業量も多い |
| 売り手セカンドオピニオン | ◎ おすすめ | 利益相反なし。最も始めやすい |
| 買収顧問 | ◎ 最強 | 継続収益。職員でも対応可能 |
以下、ひとつずつ深掘りします。
① M&A仲介——なぜ危険なのか
利益相反が構造的に起きる
仲介は、売り手・買い手の双方に良い条件を示す必要があります。これは税理士法に定められた独立性・公正性と対立する構図です。
成立のインセンティブが判断を歪める
仲介は成功報酬です。成立しなければ報酬が発生しないため、どうしても「成立させよう」という動機が働きます。その結果、「顧問先のために」という本来の目的から外れ、案件成立が優先されやすくなります。
税理士法との整合性リスク
税理士法第37条には信用失墜行為の禁止が定められています。仲介の関与の仕方によっては、ここに抵触する恐れがあります。長年かけて築いた顧問先との信頼関係が、一瞬で崩れてしまう可能性があるのです。
② 売り手FA(または買い手FA)——条件付きで、あまりおすすめしない
売り手のFA(フィナンシャル・アドバイザー)なら利益相反にならないのでは、とお考えかもしれません。しかし実態としては、仲介に近い動きになってしまいます。
ただし、小さな案件は仲介会社が受けてくれないこともあり、やらざるを得ない場面はあるでしょう。その場合は次の点にご注意ください。
- 作業量が多い:資料作成、交渉調整に加え、現地に足を運ぶ必要もあります。
- 報酬設計が重要:着手金や月額といったスポット費用を明確に設計し、成約しなくても報酬をいただくモデル(リテーナーフィー)を選択することが大切です。
- 選択制にする:とはいえ「成約しなければ意味がない」と考える売り手もいます。そこで報酬体系は選択制にし、選んだのはお客様であるという設計にしてください。そうでないと、こちらが成功報酬のために動いたという構図になりやすいためです。
買い手FAもまた、価格判断やリスク判断の責任を追及される立場に立つことになるため、おすすめしません。
では、後述する「買収顧問」とは何が違うのか。FAは意思決定を主導・提案する立場であるのに対し、買収顧問は専門的な助言をする立場です。立ち位置が根本的に異なり、成功報酬でもありません。
③ 売り手セカンドオピニオン——最も始めやすい
売り手側に立って助言する形で、税理士の強みが最大に活きるポジションです。
利益相反がない
一方の立場にのみ立って助言する形なので、利益相反が生じません。成約してもしなくても報酬を得られる設計が可能です。
税理士の強みが最大に活きる
私たちは財務・税務の専門家です。その知識で仲介案件を客観的に検証できますし、社長の性格や財務の実態を最もよく知っている立場を活かせます。
とにかく始めやすい
仲介スキルも、案件の開拓力も、営業力も不要です。顧問先からM&Aの相談が来たら、すぐに実践できます。まずはここから始めることをおすすめします。
④ 買収顧問——税理士にとって最強のモデル
そして、私が最もおすすめするのが買収顧問です。M&A後も継続的に顧問先に関与できます。
支援の流れ
- セカンドオピニオン:価格やスキームが適正かを検証します。
- DD(デューデリジェンス):財務・税務、さらに労務のDDや会計監査を行います。
- PMI(統合支援):ポイントは、DDで洗い出したリスクを解決するように導くことです。
- 月額顧問:PMIを含めた形でも構いません。長期的に関わることが可能になります。
報酬の設計
月額5万円〜15万円の継続収入に加え、買収先の顧問契約も獲得できます。
なお、報酬は継続型に限りません。セカンドオピニオンは月額5万円、DDは50万円、PMIは月額10万円——といった形で工程ごとに区切って設計することも可能です。月額にするか単発にするかを、お客様に選んでいただく形でもよいでしょう。
資格がいらない
M&A支援は独占業務ではありません。したがって全工程において、会計・税務の知識がある職員でも対応可能です。
「やめましょう」と言えるのは買収顧問だけ
これが非常に重要です。仲介会社はどうしても成立に偏ります。しかし買収顧問なら、冷静に危険を感じたときに「このM&Aはやめておきましょう」と言えます。これは顧問先に大変喜ばれるサービスです。
なぜ買収顧問が最強なのか
- 利益相反がない:成立させようというインセンティブが働かないため、顧問先への誠実さと信頼を獲得し続けられます。
- ストック収益である:月額の継続報酬であり、成功報酬型より再現性が高い。ストックであれスポットであれ取りっぱぐれがなく、精神的な余裕が生まれます。
- 雪だるま式に拡大する:継続的に支援していれば、次の買収の際にも必ず先生に声がかかります。次の買収顧問へとつながっていきます。
- 職員でも対応できる:資格が不要なため、会計・税務・ビジネスの知識がある優秀な職員が担えます。目安としては、会計事務所で2年以上の経験があり、税務担当を15件以上持っている職員であれば十分に対応可能です。該当する職員にお声がけいただき、買収顧問に取り組んでみてはいかがでしょうか。
本質は「仲介ではなく、顧問」
私たちは仲介ではありません。顧問です。
顧問先の隣に立ち続け、助言をし続けること。それこそが、私たち税理士の本来の価値です。仲介ではなく顧問である——これが、先生方が取るべきポジションです。
これからも、具体的な進め方をテーマに発信してまいります。
