顧問先からM&Aのご相談を受ける機会が増えてきた先生も多いのではないでしょうか。「会社を売りたい・買いたい」「後継者がいない」「M&A仲介会社からDMや電話が来た」——こうした相談を、経営者が最初に持ちかける相手は、たいてい私たち税理士です。
このとき、どこまで関わるべきか。あるいは、関わらないべきか。私自身、毎日が試行錯誤の連続ですが、いまの結論は明確です。税理士が担うべきはM&Aの「仲介」ではなく「支援」であり、その核心はセカンドオピニオン → DD → PMI → 顧問契約という一気通貫の流れをつくることです。本コラムでは、その理由と具体的な進め方を、報酬の目安も含めてお話しします。
なぜ税理士とM&A「仲介」は相性が悪いのか
ベテランの先生から「M&Aなんて税理士の仕事じゃないよ」とたしなめられたこともあります。私は関わらないという立場を否定はしませんが、少なくとも「仲介」という形は、税理士の本業と相性が悪いと感じています。理由は主に次のとおりです。
- 成功報酬型ゆえに、成約しなければ報酬はゼロ。案件化までには膨大な時間がかかります。実際、私が関わったある案件では、候補7社と面談し、トップ面談を2回開催しても、売り手が「やはり売るのをやめる」と心変わりしてブレイクしました。珍しいことではありません。
- 最も感情がぶつかるポジションに立たされる。価格交渉、条件交渉——その矢面に立つことになります。
- ブレイクの代償が大きい。破談後に顧問契約が気まずくなる、関係が難しくなる、といったリスクを負います。
- 単発勝負である。私たちの本業である顧問は「継続的な関係」が強みです。単発の仲介とは、そもそもの構造が噛み合いません。
税理士の本当の強みは「継続的な関係」にある
では、私たちの強みは何か。財務構造や決算書を読めること。税務リスク・法務リスクを、他の専門家と連携しながら把握できること。そして何より、経営者の性格を十分に理解した長期的な関係があることです。
だからこそ私は、税理士は「会社を売る人」ではなく「経営を守る人」であるべきだと考えています。売ること以上に、決める前の整理、そして決めてからの整理が重要です。そこに立てるのが、私たち税理士なのです。
提案する一気通貫モデル:セカンドオピニオン → DD → PMI → 顧問契約
私が顧問先のM&Aに関わるうえで、最もリスクが低く、かつ再現性があると考えているのが次のモデルです。
① セカンドオピニオンで入る
売り手・買い手の間には、M&A仲介会社や銀行といったアドバイザリーが立ちます。特に仲介は双方の顔色を伺いながら進めるため、価格の妥当性、ストラクチャー(事業譲渡か株式譲渡か)、シナジー、契約書、条件——これらを彼らだけに委ねてよいのか、という問題が残ります。
そこに専門家として入り、第三者の目で社長の思いを汲み取り、活かす。これができるのは私たちの責任だと考えています。中でも私が特におすすめするのは買い手の支援です。買い手の立場に立って一連の流れを提供し、事業の発展に貢献する——税理士の強みが最も活きる形です。売り手支援も可能ですが、利益相反の問題があるため、仲介会社の紹介やセカンドオピニオン業務、買い手との出会いの場づくりといった形での関与が現実的です。
② DD(デューデリジェンス)
DDも利益相反の観点から、原則として買い手側で行います。税務・法務リスクは司法書士や弁護士など各専門家と連携して洗い出し、IM(企業概要書)と実際の資料・実態に相違がないかを確認します。
③ 「ここでやめる」と言えるのが最大の強み
このモデルで極めて重要なのが、検討の途中で「やめる」と言えることです。仲介会社は成功報酬型ゆえに、なかなか「やめましょう」とは言えません。しかし私たちは言えます。ここまで時間も費用もかけてきたとしても、「社長、やっぱりこれはやめましょう」と進言できる——ブレイクを恐れないこの立場こそが、私たちの最大の強みです。
④ PMI(統合支援)
M&Aが成立したら、DDで出た懸念事項をPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション=統合作業)に活かします。工程表に沿ってプロジェクトチームの体制を設計し、統合方針を具体化し、施策を決定。成立以降の対応とモニタリングを主導します。当初M&Aを企画・検討した段階で見込んでいた統合効果を最大化するための工程です。
⑤ 顧問契約へ
定期的なモニタリングを経営顧問として、あるいは税務顧問として継続する。ここまでを一気通貫で支援できるのが、このモデルの強みです。
報酬の目安
参考までに報酬の目安もお伝えします。月額5万円〜15万円が一つの目安です。規模や関与度合いによって変わりますので、先生方ご自身の繁忙期も勘案して決めていただくとよいでしょう。この水準を1年ほどのスパンで継続し、その後は顧問契約へとつなげていく流れが現実的です。
税理士は「M&Aの安全装置」でありたい
第三者の冷静な目を活かして、経営者のお役に立つ。私たち税理士は、M&Aを成立させることよりも、経営を守る人でありたい。M&A仲介業者を増やすのではなく、経営の——そしてM&Aの——「安全装置」でありたい。そんな思いで、日々活動しています。
これからも、具体的な支援の方法や現場のリアルを、M&Aをテーマに発信してまいります。
